夏は暑いから嫌いだった。
世の中、暑いのに服や靴を装着しなければいけないし、化粧もしなくてはいけないし、発汗の良い私は人の倍汗をかき、そして汗をダラダラ書く女子というのもエレガントではない。海は好きだったが、四国の抜けるような透明度の高い海で育った私には、日焼け止めの匂いと油の浮く重たい色の本州沿岸の海はもはや海では無くただの汚水処理場であった。だから海も嫌いだった。
当時、世の中はダイビングブームで、ちょっと感度の高い人達はこぞってダイビングを初めていた。同じ部署の仲のいい友人5人中3人がやっていた。かなりの確率である。何度か誘われたが、そのころのダイビングセットの購入額は平均100万円。私には何が楽しくて100万円も払って重い器材を担いで勉強をしなければいけないのか。私には全く理解できなかったので、彼女たちと経験を共有することはなかった。そして何よりもそんなに南の島にばかり行っていたらバカになるんじゃないか??と意味不明な恐怖すら感じていた。
それから5年後のある夏の日、私は太陽の照りつける街をブラブラ歩いていた。私はひどく退屈で、何か新しい事をしてみたかった。でも思い浮かばない。と思いながら信号を待っていたら信号を渡った向こうにダイビングショップがあった。昔、彼女たちが熱狂していた事を思い出し、ふと魔が差してダイビングショップの門をくぐった。
まずは見た目から固める私はまず全ての器材を買い揃えた。エントリーモデルのセットだったので20万円弱、ウエットスーツなど揃えても総額で30万円くらいだったと思う。5年前の100万円に比べたら全く格安だったので金額に抵抗はなかった。7万円・沖縄で講習!という選択肢があったにも関わらず、3万円・三重県で講習、という選択をしてしまった。世界を股にかける海賊になりたいはずなのになんとも地味な選択である。
そして初めての水中呼吸という体験をするべく、三重県の海へ向かうのであった。